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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)1873号 判決 1950年3月15日

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中九〇日を本刑に算入する。

理由

弁護人関田政雄上告趣意第一点について。

憲法三七條二項は、刑事被告人の証人審問権を保障した規定である。されば、裁判所が諸般の事情からその必要を認めて証人を裁判所外に召喚し又はその現在場所で尋問する場合には合理的に可能なかぎり、被告人にも証人尋問に立ち会う機会を与えてその審問権を尊重しなければならないことは言うまでもない。しかし、同條には「すべての証人」とあるけれども、それは被告人が喚問を欲するすべての証人を意味するのではなく、裁判所が必要を認めて尋問を許可した証人について規定しているものと解すべきである(昭和二三年(れ)第八八号同年六月二三日当裁判所大法廷判決)と同様に、「証人に対して審問する機会を充分に与へ」るという規定の解釈にもおのずから合理的な制限が伴うのであって、裁判所が証人を裁判所外で尋問する場合に被告人が監獄に拘禁されているときのごときは、特別の事由なきかぎり、被告人弁護の任にある弁護人に尋問の日時場所等を通知して立会の機会を与え、被告人の証人審問権を実質的に害しない措置を講ずるにおいては、必ずしも常に被告人自身を証人尋問に立ち会わせなくても前記憲法の規定に違反するものではないと解すべきである。

本件記録によると、被告人の弁護人は、原審第一回公判において飯田政夫を証人として申請し、原審は、右証拠申請を採用して証人飯田政夫に対する証拠調を姫路少年刑務所において受命判事により行う旨を決定し、その証拠調の期日及び場所を被告人及び弁護人に通知している。そして受命判事は、弁護人立会の下に同証人を前記刑務所において尋問し、原審は、第二回公判においてその証人尋問調書の要旨を被告人に告げ意見弁解の有無を問うたところ、被告人は「何等ありません」と答えているのであって、所論のように被告人が同証人を公判廷に喚問して被告人との対決を求めたことも、弁護人が被告人を姫路に連行して証人尋問の立会を請求して被告人の審問権の行使を求めたことも、これを認むべき何らの形跡がない。されば、原審の右証拠調は、憲法の所論規定及び刑訴応急措置法一二條に違反するものではないから論旨は理由がない。

同第二点乃至第四点について。

論旨は、いづれも事実審たる原裁判所が許された自由裁量の範囲内でした証拠調の限度の決定、証拠の取捨判断を非難するに帰着し、適法な上告理由ではないから採用することができない。

よって、旧刑訴四四六條刑法二一條に從い主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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